2013年8月1日木曜日

「べんり屋、寺岡の夏。」中山聖子著

書名: べんり屋、寺岡の夏。
著者名: 中山聖子
出版社: 文研出版
好きな場所: 「夢はやっぱり、大きくね。」
 そう言って、にっこり笑った。
 わたしは、なんだかすっきりしない気持ちのままで頭を下げて、教室を出た。
所在ページ:p11
ひとこと:五年生の寺岡美舟は、将来の自分というテーマの作文に「まっとうに生きる」と書いて、先生に呼ばれます。まじめに書いたのか、というのです。美舟の祖父は医者だったのに、父は絵の道を選んで稼ぎがなく、祖母と母がべんり屋をやって家計を支えています。
 先生は、引用のように「夢は大きく」といいますが、美舟は納得できません。
 

 子どもは夢をもたなければといわれますし、大きな夢を描けばたしかに大人は喜びますが、それをどれだけの人が実際にかなえているでしょうか。挫折するときだってあるのです。でも人生はおどろきに満ちています。著者があとがきにかかれているように、「おもいがけない人生の展開」があることもあるのです。
 主人公の美舟は、家のべんり屋を手つだいながら、そんな挫折と展開を目の当たりにすることになります。海の見える瀬戸内の町を舞台に、やわらかい方言にのせて美舟とまわりの人たちがゆるゆると動きます。表紙の元小児科の医院だったべんり屋「寺岡」の古い建物がすてきです。