2016年8月31日水曜日

「ゆず先生は忘れない」白矢三恵

書名:ゆず先生は忘れない
著者名:白矢三恵
出版社:くもん出版
好きな場所:「どうして、お父さんの携帯電話に電話しなかったんですか?」
 すると後ろのほうからも声が聞こえた。
「そうだよ。携帯電話に電話をかけて聞いたらよかったんじゃん」
「ゆず先生。お父さんの携帯番号しらなかったんですか?」
 だれかの質問に、ゆず先生はくちびるを曲げる。
「ざんねんながら、先生のお父さんは携帯電話を持ってなかった。先生のお父さんだけじゃないぞ。当時は持っている人のほうが少なかったくらいだ」
所在ページ:p32
ひとこと:阪神淡路大震災から二十年もたったのですね。あのころ私は、西宮から引っ越して東京に来たばかりでした。いつも見慣れた町がめちゃくちゃになったのをテレビで見てびっくりし、知り合いの方々や保育園、学童、学校の先生はどうなさったんだろうと、家の中でただうろうろしました。親しくしてくださっていた近所の方に思い切って電話したら「ええー、よく通じましたね。電話ぜんぜん通じないんですよー」とびっくりされていたのに、親戚でもないのにかけちゃって申し訳なかったと思ったことを思い出します。
 たしかにそのころ携帯なんかなくって、今みたいにみんながメルアドを持ってるわけでもなくて、被災地では臨時に設置された公衆電話に並んでいたのでした。いざというときのために十円玉を貯めておくといいよ、という話もありました。
 そのとき、東京のほうではたしかに大変ねーとみんな言っていたしPTAで募金もしていたけれど、おろおろしていたのは、関西出身の人や、私のように前に住んでいた人だけでしたので、何か温度差を感じたのでしたけれど。それでもおろおろしているだけで被災した方々に比べれば人ごとにちがいない、申し訳ないような、何も出来ないような。そのギャップに矛盾も感じていました。

 この本は、おじいさんが阪神淡路大震災で被災したゆず先生が、そのことを今の時代のクラスの子に話すという構成でできています。
 ゆず先生の子どものころの話と、引用のように、それを今の子が聞いてどう思ったか、という話が交差しながら進みます。
 前にもこのブログで書いたように思いますが、今は本当に生活が変わってしまいましたので、子どもさんがたに昔の話をすることは難しいです。携帯電話ひとつとっても、二十年前とは変わっているのですね。

 『ぼくの一番星』(岩崎書店)でデビューされた白矢さんの二冊目の本です。白矢さんは、ご両親が神戸で被災されて、交通の寸断された中を神戸までかけつけられたという経験をお持ちです。あのころ本当にみなさんが、車で、それからリュックをかついで阪急電車の軌道を歩かれたことを思い出します。そのご経験がこの本によって、今の子どもさんがたに伝わりますように。