2016年9月13日火曜日

「まんぷく寺でまってます」高田由紀子

書名: 『まんぷく寺でまってます』
著者名:高田由紀子
出版社:ポプラ社
好きな場所:外のおさいせん箱に入っていたおさいせんを、あらってピカピカにするのか?
本堂のろうかの床みがきか?
一番サイアクなのは、お墓にそなえられた花のあとしまつ。
(たのむ! それだけはやめて!)
「お墓の花がしおれてきちゃったから、かたづけてあげてね」
 母ちゃんが、にっこりわらった。
所在ページ:P45
ひとこと:高田由紀子さんのデビュー作です、おめでとうございます!!

 主人公の祐輔は、四年生、家は佐渡の金山のふもとにある古いお寺です。お寺の子には、いろいろ困ったことがあります。
 自分の名前ではなくお寺の名前「まんぷく」と友達に呼ばれること。
 おぼうさんになるのための子どもの勉強会に行くために頭を剃られたこと(行ってみたら半分ぐらいは剃っていなかった)。
 みんな下町に住んでいるのに、自分だけ三キロも山の奥のお寺に住んでいてだれも遊びに来てくれないこと。
 お経を覚えなければならないこと。
 引用のような、お手伝いをしなければならないこと。
 そして何より、困ったことは、祐輔は本当は漫画家になりたいのに、みんなは当然のようにお寺のあととりになるものだと思っていることです。
 祐輔は、お経の本にパラパラ漫画を書いたり、檀家さんたちの前で「マンガ家になりたいんです」と言ってしまったりします。おとうさんは怒るのですが、おじいちゃんは怒らずに、自分が小さい時から使っているお経の本をくれるのです。そして、祐輔は、クラスの美雪のおとうさんのことをきっかけに、お寺の役割はなにかと考えはじめるのでした。

 伝統を継ぐのは大変なことだと思います。たいてい反抗して、そのあと考え直したりするのですが、この主人公祐輔君の場合は、その流れがとっても自然です。作者高田さんのあたたかいお人柄のなせるわざだと思います。そして、祐輔君がんばれと言いたくなります。

 それにしても佐渡の金山のふもとにあるこのお寺とそこに暮らす祐輔君一家の描写がとってもリアルです。ああ、お寺の子どもさんには、こんな苦労があるんだなあと思います。お経を覚えようとしてもなかなか覚えられないで、下校中にぶつぶつつぶやくところなんてすごくかわいそう(ですがかわいい)。でも、おじいちゃんもおとうさんも、同じように小さい時から、真剣にその仕事に取り組んでいて、その姿が祐輔君の心を動かしたのだということがよくわかって、読者はじーんとするのです。

 すてきな本、ご上梓おめでとうございました!!