2016年10月9日日曜日

「仙台真田氏物語」堀米薫

書名:仙台真田氏物語 幸村の遺志を守った娘、阿梅
著者名:堀米薫
出版社:くもん出版
好きな場所:p121
所在ページ:「姉上、この雪うさぎを、お重につめて届けたらどうでしょう」
「お重には、大八がよろこぶようなしかけをしましょうよ」
 阿梅らは重箱を用意して、上の段には雪うさぎをいくつもつめ、下の段には、干し柿やもちを詰めた。そして、心づくしの重箱を侍女にたくし、大八のもとへと届けさせた。
「今ごろ、大八は重箱のふたを開けたかしら」
「きっと、おどろいているにちがいありませんよ」
「よろこぶ顔が、目にうかぶようですね!」

ひとこと:農業や東北を主題にしたフィクション、ノンフィクションを書いておられる作家さんで、ご自身も宮城県の角田市で農業を営んでおられる堀米薫さんが、今度は、歴史物語を書かれました。

角田の近く、白石と蔵王にゆかりのある、そして今大河ドラマでとりあげられている真田幸村の娘の生涯をとりあげたものです。

実は、このお作品は、昨年の季節風大会ファンタジー分科会で拝見していました。ということは、私が世話人をさせていただいてから、ファンタジー分科会から出たご本として三冊目です! といっても世話人は何もしていませんが、ちょっとうれしいです。

そのときの生原稿と比べて、すごく違うので、びっくりしました。章建てとか、出てくる人物とかは同じなのに、やっぱりずいぶん印象が違う。引用のようなこころをゆるがすようなエピソードは、もちろん初稿でいらしたし締め切りの関係もあったと思いますが、あのときはなかったと思います。もちろんこっちのほうがすばらしいです。

合評というのは、せっかくおいでになって作品をお出しになったのだからと、よかれと思ってみんなで思いつく限りのことをいろいろ申し上げるのですが、言われたことをどう取捨選択し、どう書き直すかは、ひとえに作者の力量だと思います。言われたことを消化しきれずに迷走することもありますし、それがいやで一切書き直さないという方もおられて、それはそれで名作になっていたりするのですが。

とはいえ私が一番最初に合評会に参加したときに言われたのは、「書き直し力」というのも作家には必要です、ということでした。おっしゃったのは高橋うららさんです。今さらですが、至言だなと思います。才能と感性に任せて勢いで書いても、必ず書き直しをしなければならない時が来ますものね。

堀米さんの書き直し力のすごさを実感いたしました。

物語は、大阪城落城が迫る中、才子真田幸村は、娘を敵方の武将、片倉重綱に託します。ありえないことです。しかし重綱は、義の心を持って、これを受け入れるのでした。そして、阿梅は、妹弟たちといっしょに白石に来ます。阿梅の真田を、弟を思う心が、切なく胸に迫ります。